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 出航が間近に迫っています。何かと気忙しい毎日。そんな徒然を、出航の日を含め、レポートしてゆきます。

 今後は、航海中も、船務の合間をみては、洋上からお便りを書くつもりですので、よろしく!

5月29日(月)/晴れ・22℃・南西20ノット/fine

 朝、10時、Wendyと娘のDebbyが来た。私の出航より先に、彼女らが旅行に出るので、お別れをいいに立ち寄ったそうだ。

Wendy & Geoffのファミリーは、かつて、ヨットで日本へ行ったことがあり、港、港で、大変な歓迎を受けたそうだ。その返礼のつもりか、通り一遍のホスピタリティではない。私の為に、親しい人々をよんでパーティをしてくれたり、ドライブに誘ってくれたり、手に余る艇の修理を手伝ってくれたり・・・。初めは、お返しの当てもない厚遇に戸惑っていたものだが、最近になって、私も、彼らのように別の誰かに真心を込めてお世話すればいいのだと思うようになった。それが、巡りめぐって、世界に友情の輪を広げることになれば、こんな素晴らしいことはない。

二人とhug(抱擁)し、互いに頬にkissをして別れた。“寄港地からpost card送るからね” “楽しみに待っているよ。“Have a nice sailing!”また、一つの別れ。出航が近づくと、毎日のように誰かと別れを惜しむ日々が続く。

こまごました出航準備をし終え、同行するGuardianを訪ねた。“いつ頃、出航しようかね?”と、私がいうと、Johnは、“来週になってもいいかなぁ?”という。“別に、急ぐ旅じゃないんだ。ゆっくり準備したらいい。それに、Sydneyでは、今、Gale Warningが出ている。外洋は、相当に荒れているらしいよ”・・・そんなことで、また、少々出航が延びた。何となく気忙しいけど、私も、ゆっくり出航準備をしよう。

6月1日(木)/快晴・23度・南西20→10kt / fine

Johnが通りかかったので、出航が遅れる理由を尋ねた。彼は今まで、お金をBrazilの銀行から送金してもらっていたそうだ。ところが、これからの航路を考えると、メール・アドレスが設定しにくい。そこで、visaカードを発行してもらうべく手続き中とのこと。それが、まだ送ってこないのだそうだ。これでは、相手次第のことだから、何時になるか分らない。場合によっては、私は一足先に出て、どこか素敵なリゾートにでも、のんびり滞在していた方が好いかも知れない。JohnのGuardianがあまり遅くなるようなら、そうしようと思っている。

 何もすることがない。とはいっても、こちょこちょと結構仕事は出てくるのだけど。そんな退屈紛れに、キーボードで出鱈目な曲を弾いている。昨日から、一寸したフォーク・ソングを作曲した。コンピュータに、楽譜を記入するソフトがあると信じ、くまなく探しているが見つからない。それがあれば、このメールに、私の作った名曲が載せられるのに。残念!!

 随分永い間、クルーを乗せるべきかどうかを考えてきた。しかし、やっぱり一人で出航することになる。

 私としては、これぞという人がいれば乗せたいと思っている。しかし、そういう人は、そう何処にでも居るものではない。何しろ、この狭いヨットに、四六時中、顔をつき合わせているのだから。しかも、この偏屈者の年寄りの私と!

森瑶子の或るエッセイに、油壷に立ち寄ったカナダのヨットのカップルを食事に招いたことが書かれていた。森瑶子が、その女性に「ヨットの中での人間関係って、結構難かしいんじゃない?」と尋ねた。そうすると、彼女は、「毎日が、精神的な殺し合いよ」と、答えたとあった。多分、その通りだと思う。

そう考えると、航海の苦労の他に、人間関係の苦労まで背負い込むことになる。そいつは、ご免だ。

しかし、航海というものは、絶対に夢がなくては続かない。何か凄い情景を見ても、一人では感動というものが成り立たない。ただ、漫然と、凄い情景の記憶が残るだけのことだ。感動とは、その場で昇華すべきものだし、それは、「凄いね!」といって、誰かが、「凄かったね」と共鳴してくれなくては感動になり得ない。そうすると、また次の感動を夢見て航海が続いて行く。

男のクルーでは、森瑶子のエッセイではないが、殺し合いが本物の殺戮になり兼ねない。殺すのも嫌だし、殺されるのは,もっと嫌だ。そうすると、クルーは女性ということになるが、欲をいえば、気立てが好くて、若い美人がいい・・・。ご納得の通り、そんな子が居る訳がない。だから、今回もまた、シングルハンドということになる。やれやれ・・・。思わず溜息がもれる。

 

6月4日(日)/快晴・25度・南東6kt / very fine

凄く天気が好い。雲一つなく、日中は短パン・Tシャツでも汗ばむほど。ビーチへ出てみると、海は凪ぎ、気持ち良さそうにヨットが走っている。

マリーナの大方のヨットは出航したか、或いは、一両日に出るらしい。こちらの準備は万端整っている。予備の水も積んだし、燃料も満タンだ。ディンギーをデッキに上げて結わえつければ、後は、舫い綱を解くだけだ。

とはいえ、永い間、航海についていろいろ相談してきたGuardianを置いて出るのも憚られる。別に、互いに一人歩き出来ない訳ではないが、地中海まで一緒に行こうな!と約束した彼らを、僅か数日待てないというのも大人げない。

それに、今、飛びっきり天気が好いといったって、これが、永久に続く訳でもない。案外、手の焼けるレグで、嵐が来ないという保証はない。そう思いなおすと、まあいいか、ということになる。

手持ち無沙汰で、相変わらずカシオ・トーンを弾いている。作曲づいて、これで三曲出来た。最初はフォークソング。次は、島崎藤村の詩にちょっと歌謡曲風なメロデーをつけたもの。三つ目は、ピアノのためのエレジー。楽譜なんて、中学校以来いじったこともないので、いろんな約束事が思い出せず、我流で五線紙に書き止めている。

6月7日(水)/晴れ・22℃・南東の風10kt / fine

Johnと相談の結果、出航は10日(土)と決まった。勿論、天気次第ではある。

彼の計画では、Fraser Is.の内側、すなわち、Great sandy straitを通らず、外側の外洋を大回りして、Bundabergへ直行するつもりだそうだ。出航が大分遅れたので、距離を稼ぎたいらしい。外洋だと、オーバーナイトで走れるから、MooloolabaからBundabergまで200海里を50時間で行ける。内側を通ると、何箇所かに錨泊しなくてはならないので、最低4日間かかる計算だ。

その後は、Lady Musgrave Is.に立ち寄って、沖のリーフ伝いに進む。Musgraveには、先日、リーフに乗り上げたノルウエーのヨットが廃棄されたままになっていて、それを写真に撮りたいらしい。彼は、Brazilのさる図書館と新聞社に、詳細なクルージング・ガイドをインターネットで送っている。その中に、座礁したヨットの写真が必要なのだそうだ。

一方、私の方は、外洋を通ってBundaberg行きは大賛成。但し、Musgraveへ行っても、この寒さじゃシュノーケリングが出来る訳じゃなし、それに、一人で潜っても面白くもないから、沿岸伝いにRound Hill Pointのアンカレッジへ向かう。その後、55海里沖にあるNorth West Reefで錨泊。続いて、Keppel Is.へ向かう。North West ReefかKeppelのいずれかで、再び、Johnたちに合流する。そういう計画だ。もっとも、途中で時化にでもなれば、予定はないも同然にはなるが。

チャートを広げ、航路を点検してみた。10日の朝出航すると、最大の難所であるBreak Sea Spitという暗礁地帯を12日の未明に通過することになる。これは、少々厄介な問題である。Guardianへ出向き、Johnにそれをいうと、彼は、得たりとばかりにチャートを引っ張り出してきて、暗礁地帯を朝7時頃に通るために、出航を午後5時にすると都合がいいと説明する。考えていることは、どうも同じことのようだ。従って、出航は10日、午後5時ということに(一応)決まった。

私は相当に慎重派といわれている。しかし、Johnの航海計画を見ていると、私以上に慎重かも知れない。先程も、Colo Seaが土曜日頃、大時化だといってきた。我々の航路には、ほとんど影響のない海域だ。この用心深さは、航海の連れとして理想的といえそうだ。

彼も大方の準備を終え、今日は、デッキに昇るステップなどを作っていた。明日は、燃料の軽油を買いに行くそうだ。あと3日。着々と準備が整ってきている。

6月12日(月)/曇り・16度・南東25kt / gale

9日から、強風注意報(Strong Wind Warning)が出た。

そして、10日には、疾風警報(Gale Warning)になった。オーストラリア北東部のコロ・シー(Colo Sea)に低気圧(1006hPa。後、998hPaに発達)が発生し、南部にある1036hPaの高気圧との間、東部沿岸にトラフが南北に横たわり、沖合いでは40ktのgaleという。海上はラフ、または、ベリー・ラフ。

この形は、丁度、サイクロンのパターンとそっくりだ。これが夏なら、低気圧はとてつもなく発達し、960hPaにもなって、暴風が吹き荒れるところだ。地元の人は、これをミニ・サイクロンといっていた。

当然、出航は見合わせになった。ここMooloolabaのコーストガードも、当ハーバー内のオペレーションを、一時停止すると報じた。Johnは9日の夕方、“水曜日以降まで、延期だね”といいに来た。

こんな天気に出る奴もいない。風の唸る音と艇を揺さぶる強風の猛威に、首をすくめるように、ヨッティたちも数日来、静まり返っている。

予報によると、10日までは、南東25〜30ktの強風。10日夜半から、オフショアで33〜40ktのゲールで、11日の日曜日いっぱい続き、12、13日はイージング(軽快)で33ktといっていた。ところが、今日12日の天気予報では、相変わらずゲール警報は続いている。恐らく、オーストラリア東岸のいつものパターンで、一週間は続くのかも知れない。これでまた、出航は一週間延期となる。やれやれ・・・・。

それにしても、この荒天下、沖のバリアリーフの状況を想像してみるがいい。正に、この世の地獄の様相を呈していることだろう。一部は露出し、多くは水深1、2メートルの広大なリーフは、一面真っ白に泡立ち、次々と山のような大波が襲い、想像を絶する破壊力で全てを包む。この風下のラグーンに、逃れるチャンスを逸して錨泊中のヨットがいたとしたら、恐らく助かるまい。いま過ぎた大波は乗り切っても、次の波がヨットをバラバラにしてしまうだろう。

出航の遅れをぼやくことは止そう。こんな日は、マリーナで、のんびり手紙でも書いているに限る。

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