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Homepageで旧知のあなたへ:
Home前略 ずいぶんご無沙汰したと思います。お元気ですか?結構々々!バリバリとご活躍、ご発展とのこと……いいじゃないですか、少々の脱線、失敗。人生のちょっとしたスパイスみたいなもの。
え?私ですか?そりゃァ、元気ですとも。船酔いが治らず首筋が凝って軽い頭痛がする程度の健康優良爺です。
今このお便りは米領サモアへ向かう艇のキャビンで書いています。
去る8月30日、フレンチポリネシアのライアテアという島を出航し、今日で7日目になります。サモアへ向かうと書きましたが、ダイレクトに行くと1100浬(2000km)余りですので、途中クック諸島のスバロフ(別名スワロー)というアトール(環礁:珊瑚礁でできた島。山などはないまったく平らな島にヤシの木が生えているだけ)に寄ります。そのスバロフがあと44.1浬に迫っています。5ノットで走ると約9時間後、今午前0時ですから明朝8月6日の9時頃到着の予定です。珊瑚礁(リーフ)が円形を描き、そのリーフのいくつかはモツといって陸地になっています。リーフの描く円形の内側はラグーン(礁湖)です。輝くような青緑の海、真っ白い砂のビーチと貿易風になびく椰子の木……おなじみの南太平洋の風景が展開します。
ラグーンに入るには、ヨットはパスという珊瑚礁の切れ目を通らなければなりません。喫水の深いヨットにとって、そして大きなエンジンなど積んでいないヨットにとっては、正念場です。なぜなら、パスはほとんど非常に浅く、ヨットがコーラルヘッドを避けながらやっと通れる水深と幅しかないこと。そして、潮流がものすごく速いことなどです。外縁のリーフはその大半が水面下にあり、外洋の海水が波となってラグーンの中へ流れ込みます。その多量の海水の出口が往々にしてパスなのだから、その凄さはお分かりいただけるでしょう。パスの入口では、外洋の潮とパスから吐き出される潮がぶつかって、ちょうど湯が沸騰しているような情景をよく見ます。
まさに度胸を決めて、そのパスに突入します。艇は潮に押され、左右に振れるだけで前へ進んでくれません。舵を持つ手は脂汗、背筋には冷や汗が流れます。心臓は早鐘を打つように高鳴り……多くのパスはその中で回頭するスペースはなく、第一、その潮流の中で艇を外洋に向けることなど論外です。潮に流されたなら、もう舵など利きませんから、手近のリーフに座礁し、よく見かける破船としてパスの目印に成り果てるかです。
でも、よく見ると水底の珊瑚が少しずつ動いています。あっ、進んでいる!歯を食いしばって舵とエンジンのスロットルに力がこもります。僅か200メートルほどのパスが、なんと遠く長く思えたことか!
アトールのパスに挑むことは、何度やっても慣れるということのないヨッティの正念場です。スバロフへ立ち寄る話がすっかり横道へそれてしまいましたね。スバロフにはたぶん1週間の停泊になります。島には管理人1家族しか住んでいませんし、食料などどこにも売っていません。もちろんアトールでの水の補給も不可能。水晶のような海に熱帯魚と戯れ、豊富なロブスターとココナッツクラブ(ヤシ蟹)を食べ、ボーとして過ごすのに1週間は長すぎるのか、はたまた短すぎるのか。たいていは、水の残量が怪しくなり、水を補給できる次の港へ急ぐわけです。
そうそう、いい忘れましたが、スバロフには鮫が非常に多いそうです。それも、あのイケスカナイほお白鮫という奴!先日、スバロフから500浬程離れたペンリンアトールで、白人のカップルが鮫に食われたそうです。まあ、用心に如くは無いです。
アメリカンサモアの次は、西サモア。ここには、ニュージーランドの高等弁務官がいて、ビザの発給が受けられます。通常、日本と通商条約を締結している国はビザなしで3ヵ月の滞在ができます。それをさらに延長しようとすると初めにビザを持っていなくてはなりません。
私は、南太平洋のハリケーンシーズン(11月〜4月)をニュージーランドで過ごすつもりですから、当然ビザが必要になります。西サモアは、それが目的で寄港します。
次がトンガ。あの巨体のツボウ国王のトンガです。初めは、ババウ群島のネイアフに、さらに島伝いに南下してトンガタプのヌクアロファへ。
これまでの航海は島伝い、国伝いのそれぞれ1週間くらいの航海でしたが、ヌクアロファを出るとニュージーランドまで半月前後の時化模様の航海が待っています。
それでも、今年のシーズン開け(南太平洋のクルージングシーズン)、フレンチポリネシアの最南端マルケサス諸島から折々同じ港で錨を打った世界中の仲間がそこにはいます。恐らくは、今までのうちでも一番羽目をはずしたパーティが連日連夜、ニュージーランドのベイ・オブ・アイランズで繰り広げられることでしょう。
すっかり長話になってしまいました。そろそろ、私のワッチ(見張り当直)の時間が終わり、パートナーのすみ子がワッチの番です。これをもうひと替りするころ、美しい夜明けが始まります。今夜は降るばかりの星空ですから。
たぶん7時半頃には、スバロフの椰子の先端が水平線上に見えてくるでしょう。
スバロフには、日本のヨット「唯我独尊」がZenを待ってくれています。片島君はじめ、奥さんの倫子さん、5歳の碧ちゃん……逢うのは久しぶりです。伊勢海老取りのコツなんかを教えてくれるかもしれません。
その他、旧知のどんなヨットが停泊しているか。多分、ヒッピー爺さんの「ブラッキー」、そしてミネアポリスのエリートファミリーの「エスカペイド」、ニューポートビーチの豪艇「スクラムショー」などもいるかも知れません。
この手紙は、スバロフを過ぎ、アメリカンサモアで投函します。たぶん、これがホームページに出る頃には私はトンガ辺りを航海しているのでしょうね。
また、お便りします。南国のゆるやかな時の流れの中で、またお会いしましょう。
お元気で。 Sep. 6, 1997