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Home日本は、もう春たけなわの季節ですね。AUSTRALIAは、日増しに秋めき、嵐が一つ過ぎると、もう一段、秋が深まるといった具合です。4月20日辺りから、ひどい強風が吹き続いています。
4月17日に、【禅】の上架をしました。実に、2年振りです。船底はひどく汚れ、プロペラとシャフトは、ほとんど、推進の役を果たせぬ程に、フジツボに覆われていました。
初日は、船底の清掃と点検でした。プレッシャー・ガンで古い塗料と汚れを落とし、サンドペーパーや特殊なスポンジで細かな汚れや貝などを削り落とします。
作業が多岐に渉り、一部、専門的なものもあるので、先日、チェーン・ロッカーの工作でお願いしたTimに作業の大方を依頼しました。
18日は、船体を貫通するバルブの交換と、船底塗装の一回目、犠牲亜鉛の取り替えなどの予定でした。
朝、ボート・ヤードへ行くと、Timと数人のヤードの作業員が【禅】を取り囲んでいます。どうしたの?と、Timに尋ねると、「Zen、ちょっと厄介な問題が起きている。舵の周辺から、船底全体にオズモシスが広がっているかも知れない。どの程度のものか、判定が難しい」といいます。
オズモシスとは、ガラス繊維をエポキシ樹脂で積層し、船体を形成してゆく過程で、温度や湿度、硬化時間などの相関関係で起こるもので、積層が完全になされなかった場合、数年を経て、FRPが変質する現象をいいます。FRPは、本来、耐用年数は半永久的、強度は鉄鋼板並みといわれます。ところが、オズモシスが起こると、船体の形態を維持出来ぬ程、脆弱になってしまいます。それが、【禅】の船体に発生している可能性があるというのです。これは重大事です!
いずれにせよ、これが明らかにならなくては、作業は、前に進みません。そんな訳で、18日は、船内の作業だけで終わりです。勿論、Timたちは、オズモのチェックをしています。判定は、オズモは、舵板と、それを支えるスケグに集中している。さらに、交換を予定していたバルブの周辺と喫水線近辺にいくらか散在しているということになりました。大きなオズモは、削って、エポキシ・パテを埋め、補修しました。Timの観測では、あと4,5年は大丈夫だろうとのことです。
ところが、21日から“イースター”です。観光関係のお店以外は、あらゆる仕事が休業になります。しかも、24日まで!そして、25日は、"Anzak Day"です。下架を20日に予定していたのに、26日までは、マリーナへ艇を戻して、やるべき一切の作業が出来ません。さらに、私のvisaは、27日で切れるのです。26日までには、visaの延長手続きも完了しなくてはなりません。
20日、Brisbaneへ行き、イミグレーションへ行ってみましたが、お役所は、20日から休日な入っていました。
Timは、イースターも休まず仕事をしてくれました。お陰で、26日、早朝に艇を下架し、マリーナのバースへ戻りました。そして、9時のバスでBrisbaneへ。私の短期ヴィザ(ETAS)は、原則的には延長が利かないのですが、航海という特殊事情で、6ヶ月の延長が獲得出来ました。若し、この延長が出来なかった場合、今シーズンの紅海・地中海行きは延期せざるを得なかった訳で、これは、大変な成果です。
今(26日・夜)、キャビンの中は、まるで戦場のようです。いろんな工具やパーツ、段ボール箱などを押し除けて、僅かなスペースを作り、このお便りを書いています。
明日からは、艇の内外の片付けです。それが一区切りすると、何とかかんとか、出航の目途が見えてきます。これ以外にも、オーストラリアとインドネシアのクルージング・パーミット(航行許可)の申請や、Darwinや、Baliのマリーナの予約が残っています。
出航予定は、当初、5月初めでした。ところが、今年の気象は非常に不安定で、今でも、季節はずれのサイクロンが、時折発生しています。全体的に、季節の推移が遅れているとの判断で、5月下旬に、出航予定を延期しました。それに、いっしょにダーウィン、バリ、シンガポールを経て、紅海をクルーズしようといっている何艘かのヨットも、いろいろな事情で、5月下旬の出航を予定している模様です。
航海のルートについては、未だに、詳細は未定です。多分、ダーウィンに着いて、多くの情報に接し、インドネシアの内側を通るか、外側を通るか、或いは、ココス・キーリングを経て、チャゴス、セイシェルを廻るか・・・・さらに、それ以外のルートを検討することになるのか、そうしたことが具体的になるのでしょう。
【zen・作品集】に載せた新作『エレンの消息』は、これからの私の航海にとって、いろんな意味の課題を含んでいます。
書くにあたって、チャート(海図)を詳細に検討し、GPS上に実際の航路を設定してみました。実航可能なルート上を物語は展開して行きます。また、単独航海の味気なさ、無意味さに対し、常に抱いている“クルーを乗せたいという願望”を物語にしてみて、その可能性を検討しています。
ほとんどの航海者が、ヨットでの人間関係は、航海そのものよりも難しいといいます。余りにも赤裸々な個人を露呈せざるを得ない狭いヨットの中で、人々は、一般社会でなら何の支障もない人間関係に破綻を来たして行くのです。それでも、他者との接点を求める人間とは何なのか?互いに傷つけ合いながら、そこに表出する人間模様に、人間の悲しみや苦悩が仄見えます。そんな思いを物語にしてみました。
航海には、無尽蔵の感動が内在します。しかし、感動というものは、他と共鳴しなくては完結しないものです。夕焼け一つにしても、“美しい”と言葉に表し、“美しい”と言葉に返って来なくては、ただの情景に過ぎません。感動として昇華しないのです。単なる“情景”の綴り合わせではなく、“感動”を綴り合わせた航海にまで高めたいと思います。そのためには、傷つけ合おうとも他者の介在が不可欠なのです。これは、出口のないジレンマかも知れません。『エレンの消息』をお読み頂き、ご感想をお聞かせ下さい。
出航前に、またお便りします。お元気で!
Zen / Apr. 26, 2000
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