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7月4日(火)/晴れ・22℃・東の風22Kn/moderate rough

一昨日の夕方、Guardianが入港してきた。強い風に翻弄され、マリーナへ通ずるパッセージをリーウエイしてはみ出している。コースを外れると凄く浅いので、はらはらしながら見ている。それでも、何とかマリーナの入口までは来た。ほっとしていると、入口のバンクに乗り上げてしまった。レスキューのボートが行って引っ張り出したが、本当にこの辺の潮の干満には驚いてしまう。何と、高潮と低潮との差が6メートル以上もある。

この数日、南東の風が強い。明日辺りから20Kn、そして夕方には15Knになると予報がいっている。オーストラリアの南に970hPaの低気圧があり、1035hPaの高気圧がすぐ脇にある。低気圧から前線が、オーストラリアの北西岸南緯15度辺りまで伸びていて、あと四、五日するとまた荒れ出す。明日(水曜日)から土曜日辺りがまあまあの天気になりそうだ。

Guardianは明日の午後、出航を予定している。私は、明後日の早朝。今までの経験で、時化が収まってすぐは、波が非常に悪い。斜め後方からの4、5メートルの追い波は、時に航行の脅威になりかねない。だから、明後日ということになる。

Guardianにそれをいうと、エンジンが不調で、風が落ちると到着の時間が全く読めなくなるので、余裕をもって出るとのことだ。

天気が回復傾向にあり、そろそろZENも出航すると考え、Beyondの木綱氏が予定を聞きに来た。彼らとは随分永い付き合いになったが、ここを出ると、もう逢う機会は恐らくないだろう。さりげなく出て行くけれど、こういう“これが最後”みたいな別れはクルーズではいつものこと。それにしても、彼らには本当にお世話になった。惜別の情しきり!

7月5日(水)/快晴・24℃・東の風25Kn/rough

いつものことだけど、出航の間際というものは気持ちの迷いがつきものだ。特に、気象予報と自分で解析した気象図に食い違いがある時は尚更だ。

昨日も書いたけど、現在の気圧配置から考えて、風はやや前方からの北東風になると思うし、沿岸に強いリッジが出来て10とか15Knではない、もっと強い風が吹くと私は読んでいる。

先程、Guardianがミッドディに出航する。今夜は、Whitsundayのどこかのアンカレッジに泊まり、明朝、Townsvilleへ向かうといった。その後、一時間もしないうちに、30Knの東風が吹いてきた。高みに上がって見ると、沖をGuardianがひどくヒールして走っている。真向かいからの風に、恐らくは苦労していると思う。

Johnがzenに来た時、一応、私の見解を告げたが、勿論、彼らには彼らの見解があり、それに従って計画を立てていることだ。余計なことはいわない方がいいと思ったが、案の定、この風!

出航間際の迷いがさらに増幅して、明日早くの出航は取り止めにした。今は、休養が必要な時という自分へのいい訳もある。のんびりしよう。焦ることはない。

と、いいながらも、オフィスには一応明朝の出航を告げ、マリーナフィーの支払いも済ませた。水タンクには清水を満タンにしたし・・・それでも、今も25Knの東風・・・。どちらかに決めてしまえば、気持ちが楽になるのに。これが迷いというもの。あァ・・・。

7月8日(金)/快晴・北東の風8Kn・30℃/fine

迷った挙句、全くあっけなく7日の早朝出航した。昨晩はKenの誕生日で、マリーナ中のヨッティたちが集まった。そこで、“どうも出航に気が乗らないンだ。だから、明日はマリーナで洗濯でもしているよ”といったばかりなのに。

5時に起き軽く朝食をとって、少し明るくなったと思ったら6時。陸電のコードを外し、舫い綱を解くだけでいい。それが出航というもの。たったそれだけのことだ。出ると決まれば、昨日まで何を迷っていたのだろうと不思議に思えるものだが、迷っている時は、それはそれで結構深刻に迷っている。

風はほとんどない。強風は、Johnが出た時だけだったようだ。Whitsunday Is.の上空に黒い雲があったが、日が昇るとそれも消え見事な青空だ。南東の風10Kn。海の色は輝くばかりのターコイスブルー。Whitsundayはリゾートとして世界的に有名なところだから、クルーズのヨットの数も多い。夕方5時。Whitsunday諸島(大小70の島があるそうだ)を抜け、広々とした海域へ出る。そして夜。日中から出ていた月が明るく海面を照らし、それに負けない程に星も輝いている。こういう穏やかな航海は、幸運を独り占めしているような気がしてくる。しかし、穏やか過ぎてヨットが走らない。仕方がないから機走ということになる。そのうち好い風が吹くだろうと思っていたが、遂に吹かなかった。34時間、ずうーっとエンジンを廻しっ放し。

8日も同じような天気。

初めての港に夜入港するのは事故のもとだ。5時前にTownsvilleに着くには、どこそこのポイントを何時までに通過しなければ、というガイドラインを設け、辛うじてクリアしていく。若し、挽回出来ないような遅れが出れば、どこかのアンカレッジに躊躇せず一泊する。でも、出来ることならストレートで行きたい。そう思うから、旗が風でなびきだすと、急いでセールを揚げる。入港は薄暗くなってからになりそうだと覚悟していたら、好い風がきた。セールをトリムすると、エンジンのバックアップもあって7Knで走る。午後4時。TownsvilleのBreak Water Marinaにアプローチ。舫いをとり終えたのが4時半だった。一睡もしていないから疲れた。特に、帆走はふんわりした疲れなのに、機走はゴツゴツした疲労感だ。一段落すると、キャビンのソファで一眠り。

ここは南緯19度の熱帯である。日中は気温が30℃だった。夜間航行だったので、長袖のラガーに綿ニットのセーター、さらにフリースのジャンバーを着ていたが、全部脱ぎ捨てて、半袖のポロシャツに着替えた。今夜はゆっくり眠ることにしよう。

7月11日(火)/快晴・南東の風15Kn・26℃/fine

今朝出航を考えていたが、予報では20〜25Kn吹くという。天気図にもそれが現れていたので、躊躇なく一日延期。

快晴の下、昨日に続き街を散歩した。トロピカルで美しい街。花々も野鳥も、いかにも南国らしい。公園で目立つのはトキだ。日本の天然記念特別保護動物のトキは「朱鷺」とかいて赤い色が美しいらしいが、ここのはAustralian White Ibisといって頭と尾が黒く、体は白。それに野生の孔雀もいる。

真冬だというのに、ポロシャツ一枚で歩いていて汗が流れる。太陽が真上から射すせいで、全てのものの色が実に鮮やか。海の色だってピーコックグリーンに輝き、その中に緑の島々が美しく横たわっている。こんな景色をゆっくり眺めながら「きれいだねー」と語り掛ける相手がいたら、どんなに充実することだろう。

明朝の出航は、例によって早朝6時。行き先は、Cairns。航程は北北西へ166NM、キロにして約300km。明後日の夕方到着の予定だ。

Guardianは一昨日の早朝4時にCairnsへ向かった。彼らは、visaのリミットが迫っているので急いでいる。Cairnsから先はいい港もなく、リーフや小島の陰で一夜を凌ぐという航海が続くので、彼らも心細いと見え“Zen、いっしょに行こうよ”という。しかし、急いでDarwinへ向かうためには、かなりの難所も夜間航行をすることになる。彼らは三人だからそれも出来るが、私の場合、三日間以上の連続over nightはとても続かない。下手をすると、またHeart Attackが起きないとも限らない。どこかでそれぞれの航海に別れてゆく奴らなのかも知れない。

7月14日(金)/快晴・南の風10Kn・気温28℃/very fine

昨日の夕方、Cairnsに着いた。こんなに疲れた航海ははじめて!

12日、朝6時。TownsvilleのBreak Water Marinaを出航。やっと明るさが兆したばかり。まだ誰も起きていない。引き潮に乗って、快調に沖へ出る。Magnetic Is.を交わした広々とした航路は、チョッピーな波があるとはいえ、完璧なピクニック・デー。つまり、天気はよし、風もない。ヨットは全く走らない。勿論、こうした時のためにエンジンがある。5Knキープで飛ばしているとアラームが鳴った。オーバーヒートである。冷却水を見ると空っぽだ。薬缶一杯の水を足し、序にエンジンオイルも補充した。以降、2500回転以上には上げないようにした。

それにしても、このGreat Barrier Reefというところは大小無数の島々がある。それが、平坦な海原を変化に富んだものにしてくれるのだが、航海者にととっては、危険な障害物でもある。それに本船が非常に多い。多いといっても、東京湾とそれに続く外洋ほどではないが。東京湾の近辺は、恐らく世界一混雑したレーンだと思う。2時間に一艘ほどの頻度で、遠くに船影が見える。夜、星と月を鑑賞して楽しもうと思っていたのに、島と本船の監視でゆっくりする間もない。それでも、夜空は透明に澄みわたり、感動的に美しかった。

例の通りチェックポイントを設け、クリアしていった。大体、一時間の貯金が出来た。この分だと、Cairnsには3時半には着ける。そう思って気をよくしていた正にその時(14日朝9時)、エンジンが衝撃的な音を立て、続いて咳き込むように不快な音を立て停まってしまった。風は真正面からのシーブリーズ。潮の流れで、近くに見える暗礁帯へじわじわと流されて行く。いくらスターターを廻してもウンともスンともいわない。どうもシリンダーに燃料が行っていないようだ。燃料高圧噴射ポンプ?それとも、ピストンがシリンダーヘッドを突き破ったか?或いは、ピストンリングが欠損し、ガスの圧縮が出来ないのか?・・・考えると、絶望的な可能性がいくらでも出てくる。

最悪のトラブルの場合、新しいエンジンを手に入れることなんて不可能なことだ。先日の心臓発作とあいまって、若しかすると、船を売り払って、ワールドクルーズセーラー廃業になるかも知れない。

9時半にトラブルが発生し、暗礁帯の近辺を漂流して11時になった。Cairnsまではまだ43NMもある。コーストガードに曳き舟を頼んでも、こんなに遠くてはとても無理。風でもあれば、43NMなんて屁でもないと強がりながらも、しかし、風がなければ手も足も出ない。

破れかぶれで、先日燃料管(燃料タンクから油水分離器の間)に取り付けたゴムのポンプ(燃料タンク外付けの船外機で使う)を無茶苦茶にポンピングしてみた。半分自棄、しかし、半分は何となく感触があった。そして、スターターを廻すと、何と一発でエンジンがかかった。しかし、2、3分すると咳き込むみたいな音を立て、停まりそうになる。慌ててポンピング。とにかくエンジンはかかった。折から、斜め前からいい風が来る。エンジンパワーとクローズドホールドで7〜8Kn。これなら、若しかすると、日没後でもマリーナに入れるかもしれない。3分おき、5分おきに握力のエクササイズみたいなことを繰り返しながら、走りに走る!私が、マリーナの水門を入るその時、丁度、Cairnsを囲む山の峰に太陽が沈んだ。

マリーナは、いくらVHFで呼んでも応答なし。しょうがないから空いている所に突っ込んで明朝オフイスへリポートしよう。そう腹を括って入ったものの、マリーナには一艘分の空きもなかった。カタマランのヨッティーに、何処かに場所はないか?と尋ねると、外でアンカーリングしてはどうか、という。そんなことなら、何も43NM夢中で飛ばして来る事もなかった。そう思って未練がましくマリーナをうろついていると、Guardianがいた。“John! Attira!”と叫ぶと、Attiraが顔を出した。“停める所がないんだ”そういうと、彼らの艇と隣の60ftのヨットの間に入れろという。正に、大型モーターボート一艘が入るスペースがある。助かった。兎に角、これで今夜はぐっすり眠られる。

夜は、折角のCairnsだから、美味い日本料理でも食べようなんて考えていたが、お茶漬けを掻っ込むとぶっ倒れるように眠ってしまった。

7月17日(月)/快晴・26℃・南東の風25Kn/fine

Cairnsに来て、既に四日間が過ぎた。しかし、土・日がはさまっていて何も出来ない。

今日八時半、シーガル・ネットを終えると、船具屋へタクシーを飛ばした。不思議なことに、このマリーナ近辺に一軒の船具屋もない。ケアンズ・クルージング・ヨット・スコードロンの近くに二軒チャンドレリーがあるが、十分な品揃えがない。どうも、この街はシステムがちょっと違うようだ。工業団地にそれぞれの専門のパーツ屋があり、特に船と限らず部品をオファーしている。配管、ペイント、エンジニアリング・・・それぞれが農機具、トラック、船などの部品を置いている。

或る店で、求める物がない場合、必ず他の店を紹介してくれる。しかも、電話で確認までして。特に親切というのではなく、それがここの商習慣なのだろう。タクシーを待たせて三軒ほどはしごをして、やっと目的の油・水分離器を手に入れた。ところが、私が使っていたものとは全く違う。カートリッジ式のフィルターがあり、上部にはポンプまでついている。私が使っていた形は、もうほとんど使われていないとのことだった。

付属する継ぎ手の金物など合計$500ほどの買い物をして帰艇。エンジンのエア抜きが厄介だから、エアを入れないように慎重に手順を考えて取り付ける。しかし、どう工夫しても耐油・耐圧の8mm径のチューブが短い。昼過ぎ、もう一度タクシーで配管屋へ。3メートル$40の買い物に、タクシー代が$15掛かるのは全くもって腹立たしい。

グリップ・ポンプを取り除き、エンジンルームの壁にドリルで穴をあけてフィルターを取り付け、燃料チューブを接続し、わずかなエア抜きをし、油まみれで4時半に作業が終了。機械音痴の私にしてみれば、たったこれだけでも、航海以上に大冒険ということになる。六十の手習い。否応無しに、学習させられる。

テスト運転してみると、完全復調している。やれやれ。

そもそもの原因は不明。ただ、グリップ式のラバー・ポンプの内部に問題があったか、それとも油・水分離器の内部のストレーナーが脱落し斜めになっていたという故障が原因か。現在、快調に廻っているのだから、ピストンやシリンダーなどという空恐ろしい故障ではなさそうだ。これで当分はエンジンの悩みから解放される(と、期待している)。

明日は、燃料の軽油の購入。ジェリー缶6個。自分でガソリンスタンドから運ぶことになる。今日よりもっと大変な仕事になるかも・・・。

昨日は航路の設定をやった。Cairnsから北は、航路が非常に狭く、しかもリーフを迂回してくねくねと入り組んでいる。距離を稼ぐために、例の通りオーバーナイトで行くつもりだが、今まで経験したことのない難かしい航海になりそう。それに、これから先は、港はほとんどない。クックタウン(Cooktown)はCairnsから近過ぎて寄らないし、その次は木曜島になる。これはAustraliaの北端・Cape Yorkの先、Torres海峡の入口だ。それからは8日間ほどの航海でDarwin。

zen


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