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Home4月11日(水)/快晴・29℃・北東の風15Kn/Very fine
Lizard Is. Anchorage Tropical Sunset 一昨夜の真夜中(昨日の早朝3時)、大勢の若者が賑やかにドックを通って行きました。あァ、こんな時間に入港したヨットがあるんだな、と思っていました。
そして、昨夜になって、マキシを含むレーシング・ヨットがぞくぞく入って来ました。
Sydney-Mooloolaba Raceです。一昨夜の入港艇は、このレースのファースト・ホーマーだったのです。Sydneyをスタートしてすぐ、好い風を捉えて先行したこの艇は、そのまま強風域を走り切ったのに、遅れたほとんどの艇は、すっかり衰えてしまった風に悩まされ、10時間から15時間もの差をつけられたそうです。
そんな訳で、遅れた艇団がゴールを切ったのが、昨日の午後遅くなってからでした。コミッティのボートが、暗い海面を赤と緑の航海灯を煌かせて、忙しそうに走り回っていました。
海上のコミッティが、VHFの特定したチャネルでレーサーのゴールを告げると、マリーナにいる別のコミッティ・ボートが、そのレーサーを呼び出し、艇の長さや幅(マルチハルも多い)、ドラフトなどを確認し、どのドックの何番バースに係留するかを知らせます。さらに、入港してきたヨットを誘導し、所定のバースにヨットが納まるまでお世話します。
バースに納まった艇は、レースを完走した鬨の声(ときのこえ)を上げます。しかし、マリーナ中が寝静まっているものですから、ぐっと押さえた声で“オッ!”と叫んでいるのが、何か、とてもユーモラスでした。
夜10時頃からこのラッシュが始まり、今日の午前3時、私が就寝しようという時、まだ続いていました。たいへんな仕事です。
これらの人々は、別にレース運営委員会とか、そういう人たちではありません。シャワールームやドックのゲートに、2週間ほど前から、ボランティア募集の張り紙がしてありました。ウエルカム・パーティ―と授賞式パーティーのバーべキュー係り、コミッティの海上サポート、マリーナでの係船サポートetc.・・・・。
私が見物していたのはマリーナ担当だけですが、真夜中、海上でも活躍している人々がいた訳です。それが、ほとんど、レースとは本来関わりのないボランティアの人々です。
以前も書きましたが、西洋人は、自分達が打ち込む趣味に於いて、さらに他の人々にもっと楽しんでもらいたい、或いは、その楽しみがより安全であってもらいたいという強い願いがあって、こういうボランティアへの参加が非常に活発です。これは、マリン・プレジャーの発達した西洋の国々では、常識的なことなのです。
私は、陸上のことはあまり分りませんが、火災の消防活動、自然公園のパトロールや災害救助、或いは、自然保護の諸活動にも、ボランティアの人々がたくさん参加していて、彼等のサポートなしには、それらの活動は達成できないほどなのです。
こう考えていくと、ボランティア活動とは、彼等の文化において、ある種の生活習慣であり、根強い自発的義務感となっていることが分ります。全る趣味が、ややもすると特権的傲慢さをちらつかせた選良意識や閉鎖性に向かいがちな私たち日本人にとって、猛省すべきことかと感じます。
自らが素晴らしいと感じた事柄を、もっと多くの人に知ってもらい、さらにもっと楽しんでもらいたいという発想は、とても平和的だと思うのです。それを、さらに活動にまで高めていく積極さこそ、私たちが見習うべき点であり、そうした人々の繋がりこそが、豊かで本当に地に足のついた文化を築いて行くものだと思いますが、如何でしょう。
日中、マリーナを眺めまわすと、いろんな所に、他を抜きん出た高いマストが見えます。そして、そのステイには、誇らしげに大きなフリート旗がはためいています。マリーナは、いつもとちょっと変わった顔ぶれが陽気に行き交います。
“Good day, mate!” “How was it going your race?” “Oh It's so exciting!”・・・そんな会話があちこちで交わされます。旧知の人は勿論、初めて会った人々も、マリーナに居るというだけでMate(仲間)なのです。凄く和やかで、しかも活気のある雰囲気です。でも、こうした、誰もが微笑みを絶やさない素晴らしいステージを作り出し、陰で支えているのがボランティアなのです。素晴らしいことです。
日本へ戻ったら、私もこうした教訓を活かし、少しでもみんなのお役に立てればいいな、と思います。
4月16日(月)/晴・25℃・東の風22Kn/Mostly fine
Thursday Island Moorea Is. Cook's Bay 昨夜、ドイツの井口さんからメールが入りました。早速受信していると、突然、ユーザー名とパスワードを入力せよとのメッセージが出ました。先日来、コンピュータの誤作動が続いており、またか、という思いで入力を終えました。
ところが、パスワードが正しくありません。サーヴァーとの接続がキャンセルされましたとメッセージが出たのです。ンなバカな、本人がパスワードを入力してるんだ、と意気込んでみたところでどうにもなりません。
それ以降、送信は出来るものの、受信は不能です。モービルフォンのメッセージ欄には、もう十数通のメールがたまっています。しかし、取り出す手立てはありません。
今日午後、Lyleを電話で呼び出し、PCが故障であることを告げました。故障の状態を説明すると、兎に角、こっちへ来いということになりました。
Lyleのヨットは“Skywave”といいます。禅と同じCドックにあって、鉄製の55フィートほどのケッチです。こちらのヨットは乾舷が高いのが普通ですが、55フィートともなると、ちょっとした梯子を登ってデッキに上がります。キャビンの中は、決して豪華ではありませんが、普通の家のリビングといった感じです。リビングは、そのままキッチンに続いています。キッチンもゆったり広く、家庭にあるほとんどの設備が揃っています。当然、マイクロウエーヴ、冷蔵庫、冷凍庫、食器洗い機、etc.西洋のヨットは、かなり小さなものまで、オーヴンがついています。キッチンと反対側の一郭に、コンピュータのエリアがあって、これもまた、なかなかの設備です。
Lyleは、私のコンピュータをONにして、私の説明を聞きます。
「zen、パスワードは送信にも受信にも必要なんだ。送信だけ出来て受信が出来ないというのは、zenのコンピュータではなく、Telstraの側の故障だ。今日はホリディだから、明日、電話してみよう」ということになりました。
ホリディというのは、こちらではクリスマスに次ぐセレブレィト・ホリディである「イースター」なのです。先週の金曜日から、何処も彼処もお休み。スーパーマーケットでさえ、いやいや、ベーカリーでさえ休んでしまいます。ベーカリーは、主食を賄う者の心意気でしょうか、朝6時から営業し、日曜も普通のパブリックホリディも休みません。それが、クリスマスとイースターはお休みということですから、電話会社のサーヴィスも当然休みです
故障の対応は、明日までお預けということになりました。
それにしても、最近の禅のメールは凄まじいものがあります。
というのは、鹿児島の今給黎さんへ送ったメールが、3月16日から始まって今日まで、何と132通に及びます。当然、彼女からもそれに近い数のメールが届いています。総数200通余りというのは、今、データを当たってみた私自身が驚いています。
私たちは、このメールのやり取りをメールバトルと称していますが、始まるのは大抵夜10時過ぎです。そして、時には、朝5時までということも珍しくありません。
内容は取るに足らぬジョークや雑談、でも、時には、結構真面目な議論もします。そして、何といっても、私が航海を断念するにあたっての苦悩を、決して直言ではなく、時には比喩を以って、時にはご自分の体験を以って、ややもすると落ち込みやすい私を、実に、カラッとした決心に導いてくれたのです。
彼女の周りでは(Kairenは鹿児島の若いヨット乗りたちの溜まり場だそうです)、このメールバトルを本にしたら面白いと冷やかす人もいるそうです。確かに、文章量からいえば、一冊の本を編集するに十分な量です。しかし、彼女は、“本になったって、こんな世間話みたいなもの、誰が買ってくれるのよねエ?”といっています。確かにそのとおりですが、時には、彼女の素晴らしいお話も混じっていて、このままコンピュータの底に閉じ込めておくのは勿体無いな、と思うこともあります。
Mooloolaba canal Kawana water また、彼女は、絵が非常に上手で、パソコンのペイントもしているそうです。圧縮したものがあったということで、2点、送ってもらいましたが、イラストレーターの私の目で見ても、なかなかのもの。それに刺激され、私もPCのペイントを始めました。昨日から、既に5点ほど仕上げました。“Tropical Sunset” “Lizard Is. Anchorage”“Moorea Is. Cook's Bay” “Thursday Island” “Mooloolaba canal Kawana water”どれも、航海中の記憶を手繰り寄せながら描いたものです。圧縮し、送信することが出来れば、お目にかけることが出来るのですが、とてもそこまでPCの勉強が出来ておりません。(編集部注:フロッピーで送られてきましたので本文中に掲載してあります)
コンピュータの故障は、この凄まじいバトルを、突然停止してしまいました。何とも手持ち無沙汰というか、張り合いがないというか、今夜はただ、呆然としています。
(編集部注:禅のパソコンはその後復活しました。)
Zen/西久保 隆
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