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1月19日(金)/晴・曇・にわか雨・29℃・南東の風40Kn/Stormy

一昨日辺りから天候が不安定でした。そして今日は、非常に移り変わりの激しい嵐のような天気です。青空が見えたと思ったら、途端に激しい雨が打ち付け、かと思うと日差しがキャビンに差し込みます。

艇は大揺れに揺れ、近くのヨットの風力発電機は飛行機が飛び立つような音を発しています。また、マリーナ内の水域で風が起こす波が、太鼓のような音でスターンの船底を打ち、舫いのロープが緊張した軋みの音を上げます。嫌な天気です。  しかし、これは数週間のサイクルでやって来るここの気象の倣いです。この後に、好天が訪れることを待つしかありません。

例のRonの助けを借り、風速計の良いものを探し回ったり、その電気工事をやってくれる人を探したり、ライフラフトを6年振りの検査に出したり(車と電話がなくては何も出来ない)、結構忙しい日々を過ごしています。  風速計は、Cairnsでマストを立てた折に破損したらしく、以降止まったままです。有っても無くてもいいようなものと思われがちですが、私は航行の目安に必要な器具だと考えます。例えば、メインセールのリーフ(縮帆)のタイミング(25Knを超えたら2番リーフにする)とか、航行の可否の判断とか、そうした時に正確なデータが必要な訳です。

それに、先の事故の際、電気のコードに損傷がなかったかが心配です。特に、マストの中を通るコードがマストの根元で連結しているコネクターで、非常に不確かに接続している部分があります。加えて、コードは既に15年以上も経過していることを考えると、マスト内の全てのコードは総取替えした方がいいかと思います。風速計を新しくするためには、どうせ新しいコードを通すことでもあり、序での作業ともいえます。

ライフラフトは、本来なら、2、3年に一度はチェックすべきとは思います。しかし、禅のラフトは6年前の日本を出航する時に検査したキリです。若しもの折、最後に命を預けるはずのラフトが瞬時に膨らまなかったりしたら、何の意味もありません。  コックピットの一番後ろの部分に、非常用の20ミリロープ100mを両脇に振り分けて、ラフトのコンティナを挟むように収納しています。ラフトをそこから引き抜くように持ち上げてみると、何と、ロープの山はゴキブリの巣でした。一度に20匹ほどのゴキブリがコックピットを駆け回る様を見て、私は、もうパニックでした。日頃から、一匹でも見つけると、完全に息の根を止めるまでは、徹底的に始末しなくては気が済まない私です。30kg近いラフトを抱えていては何も出来ません。安定した場所にラフトを置くと、たまたま繋いであった水道のホースから勢いよく水を出し、目につくかぎりのゴキブリを排水口から海へ流しました。

しかし、その数は、恐らく最初に見た時の半分程です。残りの半分は、どこかに潜り込んだか、シートバッグなどにひそんでいるはずです。コックピットに4つあるシートバッグのロープを全部出し、そこにひそむ数匹をさらに処分しました。恐らく残りは、キャビンには入らなかったものの、僅かに隙間のあるセールロッカーにでも逃げ込んだに違いありません。ロッカーを開け、ゴキブリ用の殺虫剤をまるまる1本噴射し、フタを完全に密閉しました。もっとも、そのロッカーにはベンチレーター(換気口)がついているので、撲滅出来たかどうかは定かではありません。  後で聞いたことですが、ラフトを検査するために開封した時、コンティナからかなりの数のゴキブリが作業所に散乱し、物陰に逃げ込んだそうです。“悪かったね。まあ、禅からの贈り物だと思って、可愛がってくれ”というと、彼等は笑っていました。

本当にひどい天気です。5分おきに殴りつけるような雨がデッキを打ちます。かと思うと暑い夏の日差しが差し込んだり。

今、Ronが来ました。ラフトのパッケージングが済み、風速計が届いていると電話があったそうです。今すぐ、いっしょに受け取りに行こうということで、このLetterを中断して行ってきました。来週、天気が回復したら、早速、マストに登って、自分たちで出来る作業を始めようということになりました。本当に、Ronにはお世話になります。

1月23日(火)/晴・35℃・東の風10Kn/Very fine

今日、インターネットカフェで、HPのletterを見ました。僅かな日々しか経っていないのに、あァ、この頃はこんなだったのかと懐かしんでいます。文中、2箇所ほど間違いがあったので、すぐ、HPを編集してくれている仲間へ連絡をしました。これをお読みの頃は、もう、訂正されているはずですので、ご容赦下さい。 2日程前から、天気は快晴続きです。予報では、一時雨なんていっていますが、空は熱しられた濃い青の鉄板のように、毎日猛暑をもたらします。今日も35℃。ただ、風がヨットのやや前方から吹いているので、キャビンの中は爽快です。 @もう随分前からですが、私は、ある有名人に間違われて困惑しています。 そもそもの始まりはカナダでした。もう5年半も前のことです。

私が日本から太平洋を一人で航海してきたということで、沢山のTVカメラがバンクーバーのマリーナで、私を待ち構えていました。その晩のTVニュースは、どの局も私の入港風景と無様なインタビューを放映しました。バンクーバー市からはVIPとして迎えられ、今にして思えばとても懐かしく楽しい思い出です。

その中に、日本語ニュースのカメラがいて、さらに後日インタビューを加えて、特集番組を編成したいという申し出を受けました。そして、そのインタビューで、航海の諸々を語り、序でに、カナダへエントリーした辺りでの感想を述べました。 それは、アメリカとカナダの国境であるファン・デ・フカ・ストレイトという海峡に差し掛かった時、鬱蒼たる原生林の間から仄見える或る無惨な景色のことでした。折り重なる山々のいくつかが禿山なのです。それを、私は、“山に木のないカナダなんて想像もしていませんでした。あれが、日本の企業の為せる技でないことを祈るばかりです”とTVカメラに向かっていったのです。恐らく、カナダに住む人たちだって、あんな位置から山を見上げることはないでしょうから、多分、ほとんどの人が知らないことだと思います。

ところが、そうした問題提起の切り口が、Dr. Suzukiにそっくりだ、というのです。困ったことに、顔や語り口まで酷似しているとのことでした。放映の翌日、バンクーバーの隣のリッチモンドに住む甥(妹の息子)のサッカーの試合を観に行くと、大勢の人が立ち上がって私を迎えてくれたのです。これは、ただニュースで見た顔だからということではなく、Dr. Suzukiに似ていることが原因だったと、今にして気づく訳です。

Dr. Suzukiとは、Doctor David Suzukiといい、カナダの大学教授ですが、テレビで大変人気のある日本人の学者です。主に、自然科学をベースに、現代の無節操な科学技術の進歩に警鐘を鳴らすという論調で、主張も実に中庸を得た穏やかなものでありながら、鋭く核心を抉って人気があります。そんな人に似ているといわれれば名誉な話かも知れませんが、最近、オーストラリアのSBSというテレビ局が、Dr. Suzukiの番組を毎週、ゴールデンタイムに放映するようになったのが、困惑の発端です。

正に、私としては、5年も前のことですから忘れかけていたのです。ところが、最近は、頻繁に、"Are you Doctor Suzuki?"と問い掛けられるのです。 一度など、ここのヨットクラブのパーティーで、若い人たちに囲まれて、何度否定しても、“いや、あなたはDr. Suzukiに違いない”ということになって往生したことがありました。終いには、私も“Dr. Suzuki”と呼ばれると、“Yes”と答え、その場の雰囲気に合わせていたものでした。 今日は、11時頃から、インターネットカフェへ行くために外出しました。ビーチがとても美しいので、海沿いのプロムナードを歩いていました。そうしたら、数人のティーンエィジャーの女の子がどやどやとやって来て、“Dr. Suzuki,サインして下さい”といいます。手に手に手帳やらペーパーバックの白い見返しを私に差し出します。“私はSuzukiではない。よく間違えられるのだが”といっても信用しません。十代の女の子といっても、二十に近い年頃の子は、もうれっきとしたレディーです。そんなのに5、6人にも囲まれてごらんなさい。しかも、私がSuzukiなら面目も立ちますが、人違いの説明をするはめに陥っているのです。そうこうする内に、人だかりに足を止めるカップルなんかもあります。そして、彼女は彼に“Dr. Suzukiよ”なんて囁いているのです。

もう破れかぶれです。“OK, I will supply my own signature for you”そういって、ヨットのロゴの“Zen”、その上に、行書で“禅”と書きました。彼女達は、それを眺めながら、ちょっと恥ずかしそうに一礼して行ってしまいました。しかし、本当に恥ずかしかったのは、私の方です。 最近は、こんなことが度々起きます。TVが番組を早く終わってくれるか、さもなければ、私が鈴木になるか・・・・。今暫くは、こんなことが続くことでしょう。やれやれ・・・。

1月30日(火)/晴・33℃・東の風15Kn/Very warm

昨日は36℃、一昨日も35℃でした。しかも少々湿度が高いので、もう黙っていても汗が流れます。一日に最低二度はシャワーを浴びています。 今日は33℃。少し風が吹いているので、全身を汗が滴り落ちるということもありませんが、それでも耐えがたい暑さには変わりがありません。

いくらか凌ぎやすい暑さということで、先日から品切れのお味噌を買いに、隣町のマルチドール(Marochdore)のSunshine Plazaまで買い物に出掛けました。こんなに暑くなる前は、片道7kmをエクササイズのつもりでよく歩いたのですが、炎天下では、さすがにバスに乗りました。

面白いもので、スーパーマーケットのオリエンタル食品の棚に日本食を見ると、もう何から何まで欲しくなります。買った物は、お味噌2パック、お蕎麦4袋、キューピーマヨネーズ2個、お茶(最悪です)1パック、江戸揚げ(油で揚げたおせんべい)1袋、ミルキー1函、本だし1函など。お蕎麦もマヨネーズも本だしもまだ在庫があるのに、何故か買っておかないと損するみたいに買ってしまいます。勿論、他に野菜やチーズ3種類、ハーブ(ローズマリー)が入った洒落た瓶のオリーブ・オイル、コーヒーなども買いましたが、必要度からすれば日本食は、何もそんなにまとめ買いしなくてもいい訳です。故国への郷愁のあらわれなのでしょうかね。

船の作業の方は、相変わらず風速計の取り付けの下地作りです。Timが他の船の作業を終えてから毎日夕方1時間ほど立ち寄って仕事をしていく(西洋人としては珍しいことです)都合上、なかなかはかどりません。それに、時間がないために、FRPの上塗り(ゲルコート)を下地が乾かぬうちに重ね塗りした関係で、この高温にも拘わらず24時間経っても乾いていません。従って、今日予定した仕上げのサンディングと新しいインストラメントを取り付ける穴開けが出来ず、明日に持ち越しです。 明日は、電気のスペシャリストのJohnが来ることになっていますが、マストトップのトランスジューサーの取り付けとマスト内及びキャビン内配線、そして、それらのコネクションボックスの設置をしてもらい、インストラメントの取り付けや最終の結線は自分でやることになります。 Ronは、マストトップの作業を自分でやると強く主張していましたが、背中を丸くして歩いている年寄りにそんなことをさせる訳にはゆかず、それに若しものことがあっても困りますから、全てをJohnに任せることにしました。

“Ron, this is a young man's job. We are not so young already.”と私がいったことで、自負心の強い西洋人の彼は少し傷ついたようでした。そんな訳で、バルクヘッド作業の遅れのために、Ronにとって少しは面子の立つ仕事が出来たことになります。むしろ良かったと思っています。

2月4日(日)/曇、雨・29℃・25Kn/Rough

もう1週間もこの天気が続いています。Gale Warning。35から45Knの風と雨です。今朝は少し青空が見えたと思ったら、今また激しい雨。憂鬱な気分です。 もう一つ憂鬱な原因があります。 AUの電話のシステムが変わって、今年1月から、プリペイドのモービルフォン(携帯/インターネットにアクセス出来る)が発売になりました。数日前、早速それを手に入れました。$25のスターターキットやら、専用コードやら、付属品も揃えて何とかmobilenet.telstra.netというのにアクセスしました。手伝ってくれたLyleと、テーブル越しにテストの送受信を繰り返し、これで私も自分の居所からE-mailが扱えるとうきうきした気分で禅へ戻りました。

さて、Hotmailにはどんなメールが届いているかな?とwwwと入力するうちに、“オフラインではアクセス出来ません。オンラインに切り替えますか?”と表示され、そのように操作しました。しかし、電話線の接続かモデムの不備でアクセス出来ないと画面に示されるばかりで、遂に自分のメールボックスに辿り着けません。

されば、mobilenetに戻って、日本のサポートのどなたかから受信の確認を頂こうと試みました。何と、こちらの方も送信はエラーの繰り返しです。オンラインに切り替えた手順を思い出しつつ、元に戻そうとかれこれ3日掛かりで取り組んでいますが、何一つ好転しません。 元々、機械音痴、加えて、コンピュータなどという恐ろしいものに触れるべきではないという固い(?)信念の持ち主である私です。何だか、取り返しのつかない大きな罪過を犯した気分です。昨夜、Lyleにそれをいうと、後で診て上げるといいました。それさえ待ちきれず、暇さえあればパソコンをいじりまわし、ますます混迷を(恐らく、故障も)深めています。 これを書いている間にも、青空が覗き、また雨が降りました。それでも、束の間とはいえ、青空が見え出したのは回復の兆しかも知れません。もう暫くの辛抱です。

pm.6:00

先程、Lyleが電話で、いつでもどうぞといってきました。パソコンとモービルフォンを持って、彼のヨット、Skywaveへ行き、問題点を説明しました。彼の見解は二箇所に問題があるとのことです。一つは電話機です。これは時々起こることなので、あまり気にすることはないといいます。コンピュータへの接続コードを抜き、暫くしてまた差し込みます。結果は同じです。 「昨日は問題なかったのにねエ。深夜の無料時間帯以外には、1時間とは使っていないんだから」と私がいうと、彼は大笑いし出しました。「Zen、この通話料金表を見てみろ。日中の通話料は一分が88セント。30分も使えば、$25のプリペイドカードはゼロになる」

私は、どこかで$25を25時間と勘違いしていたようです。考えてみるまでもなく、余りの当たり前に、私も大笑いです。これで電話の方は解決です。 次は、コンピュータへ入力した事柄の検証です。Lyleは、じきに使用者のアドレスに、eが一字抜けていることを発見しました。61438141801@mobilnet・・・、LとNの間にEが落ちていました。それを正しく修正し、「多分、これで大丈夫。明日、新しいフォーンカードを入れたら、再度、チェックしよう」ということになりました。何とも、馬鹿みたいな話しです。コンピュータ音痴でなくても、これは、余りにもお粗末です。“I'm an altimate stupid fellow!”(俺は救いようのない間抜け野郎だ)と呟きながら、彼のヨットを辞去しました。後ろで、Lyleが笑っていました。 正しいEメールアドレスは、61438141801@mobilenet.telstra.netです。

因みに、61はオーストラリアの国番号、(0)438 141 801は私のモービルフォンの電話番号です。私のような暇人がいらっしゃったら、お声掛け下さい。 艇に戻り、パソコンを立ち上げていると、電話がピピと短く鳴りました。見ると、HPをまとめてくれている増田さんから、受信確認のメールです。電話にカードの残量がなくても、受信は出来るものなんですね。何となく、先が明るく見えてきたという感じです。

zen/西久保 隆


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